第29章

樋口浅子の脳裏には、先ほど見た相澤裕樹の両腕の火傷の跡が焼き付いていた。考えれば考えるほど、胸が締め付けられるような思いになった。

なぜここまで命がけなのだろう?

すでに離婚したというのに、なぜ命の危険を顧みずまで彼女を救おうとしたのか?

彼は自分のことを「汚い」と言ったではないか?!

樋口浅子はようやく自分の本心に気づいた。相澤裕樹に嫌われても構わない、ただ彼に自分のために危険な目に遭ってほしくないのだ。

夜の闇が大地を包み込んでいたが、樋口浅子には少しも眠気がなかった。

彼女は相澤裕樹のベッドの傍らに座り、眠る男の姿を見つめながら、心が微かに揺れ動くのを感じていた。

眠りに...

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